環境エピゲノミクス研究会(EEG5回定例会報告

 環境エピゲノミクス研究会(EEG)第5回定例会は、5月14日(土)午後に八木孝司幹事(大阪府立大学)のお世話で、大阪の中心部淀屋橋にある「大阪府立大学中之島サテライト教室」で開催された。EEG研究会の関西での開催は初めてあるが、講師の先生方もすべて関西在住の先生方にお願いするという、当研究会初の「オール関西」の会であったが、30名以上の参加者があった。

 最初の小松賢司先生(京大・放射線生物研究センター)は、「DNA二重鎖切断におけるクロマチン・リモデリング因子とその制御機構」と題し、酵母における放射線のDNA二重鎖切断作用とヒストン修飾の関連について、その基本から最新の知見までをわかりやすく話された。本会の会員には、放射線によるヒストン修飾を研究している会員は少ないものの、この会の今後の方向性を示唆した重要なご講演であった。

次には環境ホルモンの研究分野で著名な伏木信次先生(京都府立医科大学)に、「脳形成・発達と環境化学物質」と題して、主にビスフェノールAによる脳の発達障害についてのご講演をいただいた。正常なラット脳の発達を、BSAがいかに阻害するかを蛍光抗体を用いたスライド標本とDNAメチル化の変化を対比させながら懇切に紹介された。一見複雑に思われる脳の発生も、思ったより単純なシズテムで行われていることが理解できたことは面白かった。

児玉靖司先生(大阪府立大学)から「放射線による遅延性染色体異常とエピジェネティック(EG)変化」と題して、これまでに得られた放射線による染色体異常についての実験結果を、EGの観点から考察された。この発表は環境変異原研究者にも理解しやすく、染色体異常とEGとが深い関連性のあることが示唆された。染色体異常の中でも異数性の発生メカニズムにもEGが関与しているとすれば、染色体異常を変異原性とEGの両面から解明できることになりうる。

 会員からの発表では八木孝司会員が、これまでの自身の研究から、DNAアルキル化修復酵素の働きが単に修復に働くのみでなく、EGの変化にも関係がある可能性を示唆した。また、澁谷徹会員は、3月末にアメリカであった“Environmental Epigenomics (Keystone Symposia)の参加報告をした。欧米ではEGを基盤として、環境因子による疾患、発ガン、毒性、精神作用などの研究が大いに発展していることを話した。日本でも今後「環境エピゲノミクス」は大いに発展が期待される分野であり、この研究会の使命も大きいと考えられた。

 今回の定例会では、放射線についての講演が2題あったが、今後のこの研究会でのテーマとして放射線研究の重要性を示唆していた。東日本震災にともなう、福島原発からの放射線が、世界的にも大きな問題となっている昨今、そのヒトへの影響に関しても、EGからのアプローチも重要であるものと考えられた。

 終了後、近くのイングリッシュパブを貸し切っての懇親会に移った。アルコールも入って、講師の先生方の講演を話題の中心にして大いに議論が盛り上がり、また参加者の交流を深めることが出来た。定例会および懇親会を企画運営された八木孝司幹事および大阪府立大学の皆様に深く感謝を申し上げたい。

 次回の定例会は日本環境変異原学会の会場で、前日の1120日〔日〕の夕方、「環境エピゲノミクスにおける実験手法〔仮題〕」というワークショップとして開催される予定です。それに先立って、研究会のホームページ〔http://eegs.web.fc2.com/〕で実験手法に関するアンケートを行なっています。このアンケートに参加いただき、さらに次回の定例会にも会員、非会員を問わず、ご参加いただきますようお願いいたします。

(文責 代表幹事 澁谷 徹)

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