環境によって変化するDNAメチル化とその解析手法

山下 聡

国立がん研究センター研究所 エピゲノム解析分野

 DNA メチル化・ヒストン修飾などのエピジェネティック修飾は体細胞分裂に際して安定に伝承されると同時に、発生・分化に際しダイナミックに変化する。環境因子により誘導されるエピジェネティック変化は、環境適応に役立つ一方で、各種疾患にも関与すると考えられる。DNAメチル化異常の誘発要因としては、加齢に加えて、ピロリ菌感染や肝炎ウィルス感染などによる慢性炎症が特に重要である。

 ヒト前立腺がんにおいてもDNAメチル化が深く関与するが、その誘発要因は不明である。そこで我々は、前立腺におけるエピジェネティック異常の誘発要因としてアンドロゲンに着目し、アンドロゲン過剰状態を50週間継続したラットの前立腺において、2遺伝子のプロモーター領域CpGアイランドが異常にメチル化されていることを見出した。さらに、病理解析および各種炎症細胞マーカー・各種炎症性サイトカインの発現解析の結果、炎症細胞浸潤および慢性炎症に類似したサイトカインの発現増加を認めた。アンドロゲン過剰状態により前立腺において慢性炎症に類似した状態が誘導されて、異常DNAメチル化を誘発したと考えられる

 今回は、本研究におけるエピジェネティクス解析手法についての解説を中心に発表する。そして、環境因子により誘導されるエピジェネティック変化を如何に見出すか、について討議したい。

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