続澁声徹語 第32回 「愛知県と名古屋市」

 私は名古屋市生まれだが、愛知県出身だと思ったことはあまりない。まだ大阪のように、「愛知都」への動きはなさそうだ。愛知県は旧国名の尾張と

三河からなっており、いずれもそんなに広くはないが、気風などは大いに違っている。この境界は「境川」という小さな川だということである。戦国時

代でいえば、尾張は信長や秀吉であり、三河は家康と言えば何となくお分かりいただけるだろうか。

 

 信長・秀吉は尾張から西へ行って安土や大阪に城を作り、家康は東に向かい江戸に幕府を開いた。しかし、尾張や三河に幕府などを作ることはなかっ

た。つまり尾張・三河は単なる彼らの出生地に過ぎなかった。そういえば一時期、東京から新大阪行きの始発「のぞみ」は名古屋駅に停車しなかった。

いわゆる「名古屋飛ばし」である。運行しているJR東海の本社は名古屋にあるのに。「名古屋飛ばし」は演劇や音楽の開催などでも頻繁にみられるとの

ことである。

 

 愛知県は不思議な県である。自動車を中心とした工業生産額ではずっと日本最高であるが、農業も盛んでさまざまな野菜を作っている。漁業も大いに

やっていて鰻の養殖では、いまや日本で最大地であるという。つまり何でも出来る県なのである。名古屋は夏暑く、冬寒いことで有名だが、大体は温暖

な気候であると言えよう。

 

 私の高校2年生までは、名古屋城の天守閣は戦災で燃失して、石垣だけであった。城址の近くに愛知県庁と名古屋市役所とが並んでおり、県庁の屋根は

何となくお城のような形であった。私は子供の頃これが名古屋城だと思い込んでいた時期があった。私はいまでも名古屋城と言われても、あまりピンと

こないのだ。

 

最近の愛知県知事と名古屋市長との抗争はよく理解できないが、昨年の「ナゴヤトリエンナーレ」を巡る論争では、知事に軍配を上げたい。市長は高校

の後輩だがだんだん信頼出来なくなっている。彼には芸術への本当の理解がないように思う。もともとは、市長は革新系で知事は保守系の出身であった

のに。金を出しているから、市の方針に従えということでは、真に芸術を理解していないことになろう。

 

最近の学術会議議員の6名に任命に関することも同様である。明らか憲法で守られるべき思想や信条の自由を侵している。公務員だから国に任命権があ

るというのは明らかに逸脱であり、学問への冒涜である。戦前の轍を踏むことは許されない。

    天守載せ反りし石垣秋夕焼   徹    (11/13/20) 

 

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