続澁声徹語 第26回 「AF2

  AF2という食品添加剤があったことをご存知だろうか?正式な化学名はとても長く、「フリルフラマイド」あるいは「AF2」という略称で呼ばれていた。

もう40年も前に大きな話題を呼んだ化学物質だった。顕著な効果を持った保存料として豆腐を始めとして、さまざまな食品の保存料として用いられてきた。

 

このAF2に問題を投げかけたのは、田島彌太郎先生(遺伝研)を中心とした文部省の研究班だった。AF2に大腸菌、ヒトの培養細胞、カイコなどで非常に強

い変異原性が認められたのだ。班員は多くの著明な遺伝学者たちであった。その中で近藤宗平先生(第24回に既出)は、寒天培地にAF2がわずかに添加され

た豆腐を置き、大腸菌で強力な変異原性が認められたスライドを示された。当時、変異原性を有する化学物質は、がん原性がある可能性が高いというのが通

説だったので、これらの結果は世間に大きな問題を投げかけた。

 

AF2の問題が起きたのは、私が「食品薬品安全センター」に入所してすぐだだった。そのために私の担当は「生殖毒性」から「遺伝毒性」に変わり、再度、

遺伝研で研修をするという機会を与えられた。センターも厚生省から、岩原先生を代表とした、「化学物質の遺伝毒性試験法の開発」に大きな研究費をい

ただくことになり、「遺伝学研究室」も大きな脚光を浴びることになった。

 

しかし、AF2のがん原性はその強い変異原性の割にはごく弱く、国立衛試で、やっとマウスの前胃(ヒトには存在しない)にがんが発見された(これはセン

ターの畔上二郎さんの功績だった)。これを契機に、AF2の食品などへの使用は禁止された。この「AF2のパラドックス」は今でもよく解明されてはいない。

 

昨年の「日本変異原学会」で、学会の回顧としてAF2の問題が提起された。その席で、ある著名な研究者が「AF2に安全宣言を」という発言をされ、私は大い

に驚いた。「AF2のパラドックス」は、変異原性とがん原性とは決して、平衡的な関係ではなく、その間には様々な機構が介在することを示している。この要

因の解明こそが、この学会の使命だと感じた。私が多大な興味を持っている「エピジェネティクス」のことを即座に思い浮べたが、これではなさそうである。

四季の無きネズミ小屋にも年迎え   徹   (10/02/20

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