続澁声徹語 第21回 「鶴見」

 前に「横浜の住まい」を書いたが、今度は横浜の地名について少し書いてみよう。私が横浜で最も行くことがあるのは「鶴見」で、横浜駅で京浜東北線に乗り換えることになる。

「鶴見」で最初に訪れたのは「總持寺」で、曹洞宗の二大大本山の一つである。この寺には広大な敷地に、巨大な伽藍が並んでおり、どうも好きになれない。数回この寺の古い僧堂

で座禅を組んだことがある。

 

 よく通ったのは、總持寺の経営する「鶴見大学」の生涯学習センターで、

高僧による開祖道元の「正法眼蔵」購読や、歯学部の名誉教授の「解剖・発生・進化」の連続講義などを聴講してきた。現在はコロナ禍で休講になっているのは残念である。名誉教

授は、大学院で「古生物学」の学位を取られてから、医学部や歯学部での「人体解剖学」の世界に入ったということである。

 

 鶴見に、理化学研究所の「ゲノム科学研究センター」が創設され、私も期限付きの「共同研究員」になったので、ここに通うことを期待した。しかし、マウスを大量に扱うので違

った場所が勤務地となり、いささかがっかりした。ちなみに私の役目は、ENUという強力な化学変異原をオスマウスに処理して、無処理のメスと交配して、多くの突然変異体を得る

というものであった。日本で実際にENUを使って変異誘発実験をしたのは私しかいなかったらしい。

 

鶴見は川崎市とも接しており、何となく横浜の下町という印象があり、駅を出ればすぐ飲み屋街となり、私のお気に入りの街である。行きつけの「ドイツ風ビヤホール」も健在であ

る。この店はセンターに研修に来たK君が教えてくれた。鶴見出身の彼は、介護事業から出発し、「恐竜レストラン」や「パイロット養成学校」まで手がけている。研修中の彼は遅

刻の常習犯で、皆からもあまり信頼されなかったが、事業の才能はこれとは関係がないようである。

 

 鉄道ファンには鶴見駅は楽しい駅である。高架から鶴見線が出ているが、この線は複雑であり、大川支線など一駅しかなく、平日でも朝と夕方に9本ずつ走っているだけである。

また、終点は東芝の工場の中だという駅も存在している。海釣でもやって、夕方に電車が来るのを待つしかないようである。

    紫陽花や僧駆け抜けし長廊下    徹    (08/28/20)

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