続澁声徹語 第20 回 「年縞博物館」

皆さんは「年縞(ねんこう)」をご存じだろうか。年輪は木の幹に毎年出来る円形のものだが、「年縞」は地層に長年積み重なってできたもので、湖の底などで一年ごとに

縞を形成する。年縞からもやはり年代を知ることが出来る。福井県の三方五湖の一つ水月湖には、この年縞が約7万年堆積したものが残されている。私は昨年の「乗り鉄」

で若狭湾の「三方」という駅に偶然に降り、この博物館を訪れる機会があった。そして、その地質的な価値の大きさに驚愕した。

 

「年縞」は、そこに住んでいたプランクトンの死骸や落ち葉などによって、1年間に約0.7mm堆積されてゆく、だから縞の本数を数えれば、通算の時代が分かるのだ。博

物館には、長さ45mの長大な年縞をボーリングしたものが横にして並べられている。これで7万年分であり、世界最長の年縞だという。年縞の乱れているところが数箇所

残っているが、これは地震や洪水、火山の噴火などの影響だという。年縞は、過去の災害の歴史も実に正確に記録している。遥か昔の九州の姶良(あえら)大噴火の影響

も正確に記録されている。

 

「年縞」が長い年月積み重なって湖に保存されるためには、多くの条件が必要である。まず少しずつ沈降していること、大型の生物種が存在しないこと、流入する大きな

川がないこと、などなどであり、水月湖は偶然にもこれらに適合していたのだ。少ない研究費でこの湖をボーリングした時に、業者が採算を度外視して、協力してくれた

話や、「年縞」を細かく分析して、炭素14Cで絶対年代を決めていった研究は、研究者だった私の琴線に触れるものがあり、「年縞」から正確な年代を同定している世界

の研究者達との競争も大変興味をそそられた。

 

 考えてみると、福井県はいわゆる「原発銀座」であり、若狭湾には多くの原発が設置され、稼働中の発電所もある。「年縞」は、過去のさまざまな災害の記録も忠実に

記録している。年縞を研究しているという学芸員にそのことを問うと、彼は「原発のことはあまり考えていない」との答えが返ってきた。私は研究していることと実際の

社会とは関係がないという態度はおかしいと思う。原発容認派から反対派に転向した、前の福井県知事は自民党の公認を外され、選挙に落選していたことをその後になっ

て知った。

    五湖にそれぞれの色入道雲   徹      (08/21/20

inserted by FC2 system