続澁声徹語 第18 回 「杉村 隆先生」

 前回、杉村 隆先生のことを少し書きましたが、何だか横暴な先生の様に感じられたかも知れません。しかし、決してそれだけの人ではないと思っています。

といっても、先生にお会いしたのは環境変異原学会(JEMS)の二日間だけで、最近はほとんど参加しておられません。先生は天皇も臨席される、学士院賞の授賞

式での院長としてテレビでしか拝見できませんが、これも最近辞められました。

 

 先生を世界的に有名にしたのは、ヘテロサイクリックアミン類の発がん性についての業績で、Ames博士考案のAmes試験と生化学、さらには動物の発がん実

験を系統的に実施されたものです。これらは前述のN先生が中心となって実施され、その素晴らしい業績は、山極勝三郎先生直系の「日本の化学発癌研究」の偉

大な成果だとと言えます。しかし、そのためか、JEMSでは生殖細胞の研究者は少なく、発表もほとんどありませんでした。学会でも、私の発表に関心を持って

いた人は殆どなく、故石館 基先生(国衛研)から激励を受けた位でした。

 

 私が感じる先生のすごさは、あくなき探求心だと思います。岐阜でのJEMSの昼食休憩に、私は”Mutag21"という小集会を企画した。これは21世紀に向けた新

しい変異原試験・研究の展開を志向することがその意図であり、すでにエピジェネティクスへの志向があった。一番前に杉村先生が坐っておられ、大いに緊張し

たしたものだ。先生は何も発言されず、時々発表を頷いて聞いておられた。

 

 私はJEMSの中で、「突然変異」以外に、遺伝子の発現がさまざまな環境因子の影響によって毒性事象に結びつくこと、つまり「環境エピジェネティクス」に興

味を持った。そこでJEMS内に、「環境エピゲノミクス研究会」を作った。国立がんセンター講堂での研究会で、これからの問題点が議論されている時に、二階席

から、「エピAmesだ」という杉村先生の声が突然上がり、ビックリした。

 

 Ames試験を駆使して、発がん試験に大きな成果を挙げられてきた先生から見ると、化学物質などのエピジェネティクな性質を簡便に検出できる試験系の開発が

最優先であるということだ。杉村先生からのこの一言は大変重い。化学物質などのエピジェネティク誘発能を検出するための有効な検定系はまだない。

    新薬の効き目示して嫁が君    徹         (08/07/20

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