ヘテロクロマチン形成を指標とした環境・人体に残存する低レベル化学物質のエピ変異原性評価に向けて

大鐘 潤1、新井良和1,2、塩田邦郎3

1) 明治大学農学部生命科学科ゲノム機能工学研究室、2) 発生工学研究室

3) 東京大学大学院農学生命科学研究科細胞生化学研究室

 

 DNAメチル化を始めとしたエピジェネティクスは遺伝子発現を制御し、細胞世代を越えて継続する安定性と、細胞分化や環境に応じて変化しうる可塑性の両者を兼ね備えている。この性質は、すべての細胞で安定・不変であるゲノム情報からの細胞種や環境に依存した遺伝子発現に重要である。不活性なエピジェネティック修飾によりクロマチンは高度に凝集し、ヘテロクロマチンが形成される。近年、発生異常や癌など多くの疾患において、様々な遺伝子のエピジェネティック異常が病態に関連していることも明らかになりつつある。これにより、発生異常・慢性疾患の原因解明や新たな治療法の確立のため、エピジェネティクスの重要性が高まっている。

  人類はこれまでに様々な化学物質を単離・合成することで、生活を豊かにしてきた。しかし一方では、我々がそれらの化学物質に曝されていることも確かである。一部の化学物質は母体血中と同程度で臍帯血中からも検出されており、化学物質が胎児に及ぼす影響が懸念されている。このような化学物質は、環境中にごく微量ではあるが、膨大な数が存在していると推測される。DNAメチル化やヒストン修飾がエピジェネティックな遺伝子発現制御の本体ではあるが、化学物質毎に影響を与えるエピジェネティック修飾機構が異なり、ゲノム上に約30,000存在する遺伝子のいずれにどの程度の影響を与え得るかは解析が困難であると予想される。一方、マウス細胞では、DNA染色色素であるDAPIにより、ヘテロクロマチン領域をドットとして容易に検出することができる。ヘテロクロマチンがDNAメチル化等により高度に凝集した不活性な領域であることを考えると、ヘテロクロマチン形成に着目することでエピジェネティクスに影響を与える化学物質(エピ変異源)について、多数の候補から簡便に評価できると考えられる。

  以上を背景に、本研究では母体・臍帯血清中から検出される極微量の化学物質が発生中の胎児でエピジェネティック状況に与える影響を検討するために、マウスの初期胚モデルと考えられるES細胞を用いてエピ変異原の検出系を確立することを目的とした。

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