・2020年 4/9プレスリリース
【発表のポイント】
- 父親の高齢化は子供の神経発達障害注1の発症リスク因子であることが報告されている。
- マウスをモデルとして加齢が精子の形成過程に与える影響を解析し、遺伝子の働きを制御するエピゲノムマーカー注2について、父親の高齢化の影響を体系的にカタログ化した。
- 今回の研究成果は、将来的に父親の高齢化がリスクとなる次世代の疾患を予想するための診断法の開発につながると期待される。
【概要】
大規模な疫学調査により、父親の高齢化が子供の神経発達障害の発症リスクに関わると報告されています。その発症メカニズムの解明を目指し、
東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野の研究グループは、マウスの精巣において精子形成過程のエピゲノム変化を体系的に解析し
、加齢による変化をカタログ化しました。遺伝子の働きを制御するいくつかのエピゲノムマーカー(ヒストンタンパク質メチル化修飾注3等の量)
は精子形成過程において加齢に伴い大きく変化することを見出しました。たとえばエピゲノムマーカーのうち、精子のH3K79me3注4の量は、仔
マウスの音声コミュニケーションの異常と高い相関性が見られることから、次世代個体の行動に関する「予測マーカー」としての意義があると考
えられています(特許第6653939号)。本研究で得られた知見により、父親の加齢がリスクとなる子の神経発達障害の発症メカニズムに関する理
解が進むと考えられ、将来的に父親の加齢がリスクとなる次世代の疾患を予想するための診断法の開発等につながると期待されます。
本研究成果は、「PLOS ONE」に、米国時間2020年4月8日午後2時(Eastern Time)に掲載されました。
・最大規模の横断的がんゲノム解析による新規発がん機構の解明―がんゲノム医療への応用が期待―
発表のポイント
- これまでで最大規模の症例数を対象とした横断的がんゲノム解析研究を実施。
- 同一がん遺伝子内における複数変異が比較的高頻度に存在しており、変異同士が相乗的にがん化を促進するという新たな発がん機構を発見。
- 複数変異は、単独では比較的低頻度で機能的に弱い変異に集積しており、これまで意義不明であった変異が生じる理由が説明可能となった。
- 複数変異は、分子標的薬の反応性を予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆され、がんゲノム医療に役立つことが期待される。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区) 分子腫瘍学分野 斎藤優樹任意研修生、古屋淳史主任研究員、
片岡圭亮分野長らの研究グループは、京都大学大学院医学研究科 奥野恭史教授、東京大学医科学研究所 宮野悟教授らと共同で、これまで
最大規模の症例数である6万例(150がん種以上)を超える大規模ながんゲノムデータ(注1)について、スーパーコンピューターを用いた遺
伝子解析を行い、同一がん遺伝子(注2)内における複数変異(注3)(注4)が相乗的に機能するという新たな発がんメカニズムを解明しま
した。
本研究結果は2020年4月8日(英国時間)に英科学誌「Nature」に掲載されました。今回の研究の主な成果は以下の点です(図1)。
1.がん遺伝子は従来単独で変異が生じることが多いと考えられてきましたが、一部のがん遺伝子では複数の変異が生じやすいことが明らか
になりました。PIK3CA遺伝子・EGFR遺伝子など代表的ながん遺伝子では変異を持つ症例の約10%が同一遺伝子内に複数の変異を有して
おり、これらの大部分は染色体の同じ側(シス)に起きていました。
2.同一がん遺伝子に複数変異が生じる場合、単独の変異では低頻度でしか認められない部位やアミノ酸変化がより多く選択されていました。
これらの変異は単独では機能的に弱い変異ですが、複数生じることで相乗効果により強い発がん促進作用を示しました。
3.特にPIK3CA遺伝子で複数変異を持つ場合は、単独変異よりもより強い下流シグナルの活性化や当該遺伝子への依存度が認められ、特異的な
阻害剤に対して感受性を示しました。
これらの結果は、同一がん遺伝子内の複数変異が発がんに関与する新たな遺伝学的メカニズムであることを示しています。本研究により、これまで
単独では意義不明であった変異が生じる理由が説明可能となるほか、複数変異は分子標的薬(注5)の治療反応性を予測するバイオマーカー(注6)
にもなり得るため、がんゲノム診療に役立つことが期待されます。
2020年3月20日 理化学研究所
-低タンパク質の食事によるエピゲノム変化が遺伝する-
理化学研究所(理研)開拓研究本部眞貝細胞記憶研究室の吉田圭介協力研究員(研究当時)、石井俊輔研究員らの国際共同研究グループは、
マウスを用いて、父親の低タンパク質の食事が生殖細胞でエピゲノム[1]変化を誘導し、精子を通じてそれが子供に伝わり、子供の肝臓にお
ける遺伝子発現変化とコレステロールなどの代謝変化を誘導することを明らかにしました。
本研究成果は、「親の食事が子供の成人病などの疾患発症に影響する」という胎児プログラミング仮説[2]のメカニズムを明らかにするもの
で、生活習慣病などの発症予防につながると期待できます。
胎児プログラミング仮説の現象は、何らかのエピゲノム変化が遺伝することに起因するとされていましたが、そのメカニズムは明らかになっ
ていませんでした。
今回、国際共同研究グループは、野生型雄マウスに低タンパク質食を与えると、その子供の肝臓でコレステロール代謝系遺伝子などの発現が
変化するのに対して、転写因子[3]ATF7[4]のヘテロ変異体[5]の雄マウスが父親の場合には、子供に遺伝子発現変化が起こらないことを見い
だしました。さらにこのメカニズムとして、低タンパク質食を与えると、雄の精巣の生殖細胞でATF7がリン酸化され標的遺伝子から遊離す
ることで、エピゲノム変化(ヒストンH3K9のジメチル化[6]レベルの低下)が起こり、この変化が精子を経て受精卵に伝わり、遺伝子発現
変化を誘導することを明らかにしました。
本研究は、米国の科学雑誌『Molecular Cell』の掲載に先立ち、オンライン版(3月19日付:日本時間3月20日)に掲載されます。