私の研究の旅:GeneticsからEpigeneticsへ  第10回

                    “Tox 21” 研究所  澁谷 徹

7. 環境エピゲノミクスへの道

 その後、ENUにはエピジェネテック(epigenetic)な作用もあるらしいという結果を、

丹羽大貫先生(京都大学名誉教授・現放射線影響研究所理事長)からいただいた遺伝子

内組み換えを検出できるマウス系統で得ました、

京都大学の放射線生物学センターの丹羽先生とは2年間共同研究をさせていただきまし

た。

しかし残念ながらこの遺伝子不安定性については、対照群での自然誘発頻度が高く、

より膨大な実験結果が必要でありました(19)。

そのうちに、私は定年制によって安全センターから放逐され、その実験は未完のま

まに終わってしまいました。

「Epigenetics」とは、遺伝子突然変異を伴わないで、遺伝子の発現が、DNAやそ

れを取り巻くHistoneの修飾によるクロマチンの変化やさらにさまざまな非標的RN

Aによって、変動することいい、突然変異と同様に生体機能に大きな影響を与えるも

のです。

現在私が実験もしないのに、”Epigenetics”にこだわり、「環境エピゲノム研究会

(EEG)」を設立し、環境エピゲノミクスを日本変異原学会(JEMS)に定着させるこ

とに悪戦苦闘しているのもセンターでの怨念のせいでもあるようです。

 私はもう10年も前にJEMS内にEEGを結成しましたが、現在は残念ながら、休会

中です。是非この会を再興したいとさまざまな努力をしているところです。

これからの生物学は、Epigeneticsを取り入れることで大きく発展・進化するもの

と考えています。

私の守備範囲である毒性学においても、発がんの問題や内分泌攪乱を含めた生殖学

分野においてEpigenetic的な解析が重要になることが予測されます(20)。

最近のNatureの総説では、これらについて明快に論議されており、ぜひご一読を

お願いいたします(21)。

ここでも昔断った、「生殖学」が顔を出してくることは面白いことだと思います。

この間、10年間以上にわたって、堀谷幸治さん(元日産化学)および原 巧さん

(元安全センター)とたった3人で、

「環境エピゲノミクス」を志向して、ほそぼそと毎月秦野の「でんえん」や真鶴の

情報センターで、”Epigenetics”の関する様々な問題について議論してきました。

これは私にとっても大きな財産であると誇りにすることが出来ることを付け加えて

おきたいと思います。

「でんえん」のマスターはたった一品の注文で長時間にわたって客の来ない2階を使

わせてくれました。今はない「でんえん」のマスターにも深く

感謝いたしたいと思います。

関連文献

19. 澁谷 徹、武田和香子、原 巧:生体内遺伝組み換え検出系としてのPunマウス

Altern. Animal Exper. 8: 107-112, 2002

20. T. Shibuya and Y. Horiya:Introduction to epigenetic toxicology of chemical

substances. Genes and Environment, 33: 34-42, 2011 

21. Cavalli, G. and Heard, E.: Advances in epigenetics link genetics to the

environment and disease. Nature: 571: 489-499, 2019

澁谷 徹 259-0312 神奈川県足柄下郡湯河原町吉浜1933-45

 ”Tox21"研究所主宰

 日本環境変異原学会名誉会員  日本エピジェネティクス研究会会員

 環境エピゲノム研究会前代表幹事

  Tel/Fax : 0465-63-8867

  Mail address : to-shibuya@amber.plala.or.jp

   “Tox21”研究所:t-shibuya.tox21@zpost.plala.or.jp

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