環境エピゲノミクス研究会 第4回定例会  

ご参加、ご討論ありがとうございました。 盛会のうち無事終了しました。 

この場をお借りして御礼申し上げます。

日時:2010年11月15日(月)

場所:つくば国際会議場(エポカルつくば) 小会議室404 

テーマ「活性酸素・炎症とエピジェネティクスコードのリンクを探る」

1.活性酸素と突然変異誘発

布柴達男会員(国際基督教大学教養学部)

2.フリーラジカルによる5メチルシトシンの生成機構

葛西宏会員(産業医科大学産業生態科学研究所)

3.慢性炎症の分子基盤と関連病態

小川佳宏先生(東京医科歯科大学難治疾患研究所)

4.総合討論

第4回定例会世話人 野原恵子(国立環境研究所環境健康研究領域)

 

環境エピゲノミクス研究会 第4回定例会報告

  第4回定例会は日本環境変異原学会の前日2010年11月15日午後7時半から「つくば国

際会議場」で開催された。今回は「活性酸素・炎症とエピジェネティクスコードのリンクを探る」

というチャレンジングなテーマ活性酸素、炎症がご専門である3名による講演、討議が行われ

た。参加者は学生・院生を含めて45名であった

布柴達男会員〔国際基督教大学〕による『活性酸素と突然変異誘発』では、これまでの研究成果の

中から、主に大腸菌を用いた活性酸素制御系について分かりやすく解説があった。大腸菌での活性

酸素制御ではFeの濃度調節が重要であり、そのトランスポータ遺伝子Furの欠損株、活性酸素消去

酵素SOD欠損株との二重欠損株では急激に変異率が上昇すること、また、DNAの酸化修飾はDNA

中での塩基修飾よりもヌクレオチドの塩基修飾後DNA中に取り込まれるものが主であることなどが

分かった。真核細胞でもFe制御不全などが活性酸素によるDNA酸化修飾による変異を引き起こすこ

とがわかっており、さらにエピ変異を引き起こすことは十分に考えられるとのことでした。

葛西 宏会員(産業医科大学)による『フリーラジカルによる5-メチルシトシンの生成機構』

では、最新のDNAメチル化異常を引き起こす仮説が紹介された。演者のグループはこれまで

に、発癌プロモーターとして知られているt-Butyl-OOHCu-OOHが2価鉄の存在下でdC

C5位のメチル化を起こすこと、またメチオニンの酸化体メチオニンスルホキシド(MetO)

OHラジカル発生系(Fenton反応)の組み合わせによってもdCm5dC修飾反応が起こること

を発見している。MetOは炎症、加齢、喫煙により生体内で増加することが知られており、メ

チルラジカルは様々な物質から活性酸素の作用あるいは代謝により生じることが知られている

ので、発癌過程でのプロモーター領域の過剰メチル化の一つの原因としてメチルラジカル機構

が考えられるとのことでした。

 川佳宏先生〔東京医科歯科大学〕の『慢性炎症の分子基盤と関連病態』では、炎症について

基本的な定義から始まり、脂肪細胞より放出される飽和脂肪酸が間質細胞であるマクロファージ

に発現する病原体センサーTLR4を活性化して慢性炎症が誘導され糖尿病などの疾患に至ること、

非アルコール性脂肪肝(NAFLD)では異所性脂肪が酸化ストレス、TNFαなどのサイトカインに

より非アルコール性脂肪肝炎(NASH)から肝硬変などへ移行していくことなど、炎症がさまざ

まな慢性疾患の原因として考えられている最新の知見を紹介された。慢性炎症の分子機構では活

性酸素、エピジェネティクスの関与している可能性は十分あり、今後のこの分野での進展が期待

されるとのことでした。

 全体の討議は残念ながら十分な時間がとれませんでしたが、前2題の講演にあったように活性酸

素が遺伝子変異やエピジェネティクスの異常を引き起こす経路が解明されつつあり、小川先生の講

演での慢性炎症が特に脂肪細胞から出される脂肪酸を引き金にさまざまな炎症反応を引き起こし組

織細胞がリモデリングしていくことから、炎症−活性酸素−エピジェネティクスとリンクが確かに

あり、その検証へ向けて様々なヒントを与えてくれた内容だったと思いました。今回の定例会は国

立環境研究所の野原会員とその研究室の方々のご尽力で開催できました。関係の皆様に深く感謝い

たします。(文責:堀谷幸治)

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