環境エピゲノミクス研究会」第3回定例会**************** ホームへ

日時: 2010年7月9日(金)午後1時~6時

場所: 国立がん研究センター内 がん研究振興財団国際会議場

 シンポジウム 『環境エピゲノミクスのめざすもの』

  1.エピゲノミクス研究に用いるDNA分析法の基礎と応用

     早津彦哉先生(岡山大学・薬学部)

        座長 河井一明 (産業医科大学・産業生態科学研究所)

   2.子宮内環境の引き起こす胎児エピゲノム変化と成人病

     福岡秀興先生(早稲田大学・胎生期エピジェネティック制御研究所)

        座長 須藤鎮世 (就実大学・薬学部)

3.環境化学物質のエピゲノミクス

     野原恵子先生(国立環境研・分子細胞毒性・EEG会員)

        座長 伊吹裕子 (静岡県立大学・環境科学研究所) 

4.国際ヒトエピゲノムコンソーシャムの状況と環境エピゲノミクス

       牛島俊和先生 (国立がん研究センター・研究所)

                座長 澁谷 徹 (“Tox21” 研究所)

5. 総合討論 座長 八木孝司 (大阪府立大学・先端科学研究所) 下位香代子 (静岡県立大学・環境科学研究所) 

 

「環境エピゲノミクス研究会第3回定例会」報告

「環境エピゲノミクス研究会第3回定例会」が、7月9日午後に国立がん研究センター内、「がん振興財団国際会議場」で約50名の参加者を集めて開催された。今回はシンポジウム形式で、「環境エピゲノミクスのめざすもの」というタイトルのもとに、エピジェネティクスについて、その基礎、臨床医学さらに環境科学の各分野からの講演をいただき、これらを受けて「環境エピゲノミクス」への取り組みについて総合討論が行われた。

 まず、早津彦哉先生(岡山大学・薬学部)が、「エピゲノミクス研究に用いるDNA分析法の基礎と応用」と題して、先生がこれまで長年にわたって世界の先端を切って研究されてこられた、Bisulfite法による5-methylcytosineの分析法開発やその利用における問題点などについて、貴重な裏話を交えてお話をされ、核酸化学研究の重要性と楽しみが伝わってくる名講演であった。最後に最近ご研究を進められておられる5-hydroxymethylcytosineについて、その第6の遺伝情報としての機能の可能性についても言及された。先生のいつまでも尽きないご研究への情熱が感じられた。

 次に、福岡秀興先生(早稲田大学・胎生エピジェネテック制御研究所)が、「子宮内環境の引き起こす胎児エピゲノム変化と成人病」と題して、ヒト出生前の胎児の子宮内での環境が、いかに出生後のヒトの健康に大きな影響を与えるかについて詳細な疫学データに動物実験の結果を交えて講演をされた。その中で、現在の若い女性達の「やせ願望」が、これから生まれてくる子供達やその未来の世代にも健康上の悪影響を与える可能性についての重要な指摘をされた。特に現在の日本の妊婦の栄養状態が、かつての「オランダの冬の飢餓」に近い状態であるとの発表は、日本人の将来にとって大きな警鐘である。

 3番目の野原恵子会員〔国立環境研究所〕は、亜ヒ酸を用いた、マウスの発がんを含めた健康影響とそれに伴うエピゲノム変化との関連性について講演をされた。それらの関連性については、認められる場合とそうでない場合があるとのことだった。また、実験結果における雌雄差、脂質代謝の変動などの問題についても興味が持たれた。日本では、まだこの種の実験結果はほとんど得られておらず、この分野へ果敢に挑戦されている姿勢には感銘を受けた。現在国立がん研究センター研究所の牛島・山下先生との共同実験が進んでおられるとのことで、今後の進展が大いに期待される。

 最後の牛島俊和先生(国立がん研究センター研究所)は、「国際ヒトエピゲノムコンソーシャム(IHEC)の状況と環境エピゲノミクス」という演題で、最近国際的に創設された、IHECの成立過程とそれに対する日本の貢献の可能性について説明をされた。IHEC活動への国からのご支援の要望については、この研究会も「日本エピジェネティクス研究会(佐々木裕之代表幹事)」からの要請を受け、その要望書に名を連ねさせて頂いている。また、後段の「環境エピゲノミクス」についての発表では、環境因子として「ピロリ菌」を取り上げて、ヒトの胃がんにおけるDNAメチル化とがんの発症の関連について明快なデータを示された。

その後、総合討論に移り、これまでの4名の講師のご講演を受けて、これから「環境エピゲノムミクス」をどのように進めてゆくのかという問題についての討論がなされた。その中で、御参加いただいた杉村 隆先生(元日本環境変異原学会会長)からのEpigenetics誘発物質を精度良く検出できるようなEpi-Ames試験が出来ないか、その標準物質はあるか?といった的確でかつ軽妙なご質問によって大いに討論が盛り上がり、この定例会を成功裏に終了することが出来た。

 

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