環境エピゲノミクス研究会活動報告

第1回ネットシンポジウム「環境エピジェネティクスと疾患」を下記のとおり開催しました。 

日時:20211016日(土) 1400-1700

1.はじめに       堀谷 幸治(LEEG)               

2.環境要因曝露によるエピゲノム変異 

             牛島俊和 先生(国立がんセンター研究所エピゲノム解析分野)

3.エピジェネティクスからみた養育環境〜発達障害疾患におけるDOHaD説〜 

             久保田健夫 先生(聖徳大学)

4.環境ストレスによる精子エピゲノム変化を介した遺伝 

         吉田圭介 先生・石井俊輔 先生(理化学研究所)    

5.総合討論・総括    司会進行:澁谷 徹(LEEG)

 参加者約30名でJEMS会員、環境ホルモン学会会員を中心にアカデミア、研究機関、企業の研究者ばかりでなく、

市民団体や新聞社の方にもご参加をいただきました。

 

牛島先生の「環境要因暴露によるエピゲノム変異」では、ゲノム変異と比較しながら、その変異はageing や慢性炎症

などにより、DNAメチル化、ヒストン修飾、mi-RNAの制御において広範囲に引き起こされること、またそれ等が蓄積

されていくことで最終的な疾患につながることを胃がんや神経疾患の例などで分かりやすく解説していただいた。また

、エピゲノム変異誘発物質の検出に関しては、DNA脱メチル化剤やヒストン脱メチル化阻害剤では検出系が確立されて

おり、実際に医薬品候補化合物なども見つかっているが、それ以外のDNAメチル化剤等については検出法の感度などの

問題があり、開発には一層の研究が必要とのことでした。

 

久保田先生の「エピジェネティクスからみた養育環境〜発達障害疾患におけるDOHaD説〜」では、RETT症候群とい

った精神疾患では、「ゲノムインプリンティング」という発達における父親側と母親側の遺伝子がそれぞれの特定の

細胞や時期に発現されるようにエピジェネティックな制御を受ける現象と関わっており、久保田先生が初めてその異

常が原因で引き起こされることをiPS細胞の実験で明らかにした例を解説された。また、胎児・幼少期の子および母

親の低栄養や精神的ストレス、母親の喫煙などがエピジェネティックな異常を引き起こし、子供の発達障害疾患につ

ながりことを動物実験や疫学的調査研究から示され、さらにその後の養育環境で症状が改善することが可能であり、

現在は主にその研究に携わっておられるとのことでした。

 

 

吉田先生の「環境ストレスによる精子エピゲノム変化を介した遺伝」では、低蛋白食の雄マウスから精子のエピジェ

ネティックな変異を介して仔の肝臓のコレステロール代謝異常がみられるが、その機構は、低たんぱく食による酸化

ストレスがATF7依存的な精子や代謝のエピゲノム変異を引き起こすことで次世代に伝えられること、さらにはTh1

どの自然免疫もATF7依存的に記憶されること、すなわち、ストレス応答性のATF7が様々な環境因子によるエピゲノ

ム変異を免疫細胞、生殖細胞にもそれを記憶させ次世代にも伝える機構があるということを解説されました。

 

総合討論では、

Q:ユークロマチンとヘテロクロマチンでのエピ変異感受性に差があるか?

 A:おそらくユークロマチンの方がエピ変異は受けやすい。データは未確認。

Q:がんになりやすい体質のエピジェネティックな継世代的遺伝はありうるか?

 A:がん体質などはエピジェネティクスに関連したSNPなどが中心。KDMなどで

  報告がある。

Q:養育環境による症状改善は年齢的にどれくらいまで可能か?

A:若い方が効果は得やすいと考えられるが、一概に何歳ぐらいとは言えない

Q:粗暴な系統動物を幼少期に撫でまわすことなどで温厚な性質にすることができたが、

人でも同様なことは可能か?

A:発達障害などで強制的なものは逆効果、優しくケアしてあげることが大切。

Q:精子を介したエピ変異は次世代以降どうなるか?

A:多世代の検討はこれからの課題。

 

などの質疑応答があり、活発な討議がされました。ここにご講演・座長の先生、先生

 ご参加された皆様に厚く御礼申し上げます。(文責:EEG事務局 堀谷幸治)

 

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